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新潟地方裁判所 昭和43年(ワ)337号 判決 1969年6月20日

原告 佐藤由太郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 吉田謙輔

被告 安孫子征二

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 石川秀敏

主文

一、被告らは各自、原告佐藤由太郎に対し三、三三七、九三六円、原告佐藤ヨセに対し二、七八七、九三六円およびこれらに対する昭和四三年六月二九日以降各完済迄各年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らのその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その二を被告らの各負担とする。

一、この判決の第一項は被告らに対し、原告佐藤由太郎は五〇万円、原告佐藤ヨセは四〇万円の各担保を供したとき、仮に執行できる。

事実

第一、原告らの申立と主張

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、各自、原告由太郎に対し五、二四一、三七八円、原告ヨセに対し四、三九五、三七五円およびこれらに対する昭和四三年六月二九日以降各完済迄各年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、次のとおり述べた。

一、本件事故と原告らの関係

被告安孫子は昭和四二年六月二二日午後八時頃原動機付自転車を運転して酒田市若原町五番七号附近の道路を進行中、道路前方左側を歩行中の佐藤茂に衝突し同人を死亡させた。

原告らは右茂の両親でその相続人(相続分各二分の一)である。

二、被告らの責任

本件事故は、被告安孫子が夜間呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラムのアルコールを保有しながら原動機付自転車を時速約四〇粁で運転し、且つ前方注視義務を怠った過失により惹起したものであるから、同被告は不法行為責任を負うべきである。

被告会社は被告安孫子の使用者で、且つ本件事故は被告安孫子が被告会社の業務のため原動機付自転車を運転中惹起したものであるから、被告会社は使用者責任を負うべきである。

三、本件事故による損害

(一)  茂の喪失利益

茂は死亡当時満二六才の健康な男子で、当時株式会社第一製パンに勤務し月額三五、七〇〇円の給料を受け、その生活費は月額一〇、四〇〇円(総理府統計局、昭和四一年全国全世帯平均家計調査報告における一世帯支出額を世帯員数で割ったもの)であり、本件事故によって死亡しなければ六三才迄なお三七年間就労可能であったから、その喪失利益をホフマン式計算によって法定利率による中間利息を控除し死亡時の一時払額に換算すると六、二六一、七五〇円となり、これが同人の本件事故による損害である。原告らは右損害賠償請求権を各二分の一(三、一三〇、八七五円)ずつ相続した。

(二)  葬儀費用

原告由太郎は昭和四二年六月二四日に茂の葬儀を行い、且つ右は佐藤家で初の仏事であったところから仏壇および墓石を設けたが、その支出した諸経費は別表記載のとおりで合計五四六、〇〇三円である。

(三)  慰藉料

茂は原告らの長男で昭和三八年三月に法政大学経済学部を卒業しようやく社会人として働きだしたもので、その急な事故死により原告らは失望と悲嘆のどん底につき落された。よって右精神的苦痛に対する慰藉料として原告各自につき二〇〇万円宛支払うよう求める。

(四)  弁護士費用

原告由太郎は原告両名のため本訴を原告代理人に委任しその費用として三〇万円を支払った。

四、損益相殺

原告らは本件事故に関し自動車損害賠償責任保険より一、四七一、〇〇〇円を受領し、各二分の一(七三五、五〇〇円)ずつ前項の損害に充当した。

五、本訴請求

よって被告らに対し、原告由太郎は第三項(一)ないし(四)の損害合計五、九七六、八七八円から第四項の保険金七三五、五〇〇円を控除した五、二四一、三七八円、原告ヨセは第三項(一)、(三)の損害合計五、一三〇、八七五円から第四項の保険金七三五、五〇〇円を控除した四、三九五、三七五円およびこれに対する昭和四三年六月二九日(被告らに対する本件訴状副本送達の後の日)以降完済迄の民法所定の遅延損害金を各自支払うよう求める。

六、本件事故原因に関する被告らの主張について

(一)と(二)はいずれもすべて争う。(三)のうち、茂が被告ら主張のとおり上村神経科医院に入院し、小泉キイと婚姻および離婚をし、転職したことは認めるが、その余は争う。(四)はすべて争う。

第二、被告らの答弁

被告ら訴訟代理人は請求棄却の判決を求め次のとおり述べた。

一、本件事故と原告らの関係についてはすべて認める。

二、被告らの責任については、被告安孫子の過失を争い、その余は認める。本件事故の原因は後記第四項記載のとおりである。

三、本件事故による損害については、(一)のうち茂が事故時満二六才で第一製パンに勤務していたことは認めるがその余は不知、(二)ないし(四)はすべて争う。

四、本件事故原因に関する被告らの主張

(一)  被告安孫子は平素から酒豪で事故当時原告らの主張する量のアルコールを保有していたとはいえその酒気によって正常な運転ができない虞のある状態ではなかった。このことは同被告が落野目公民館から本件事故現場に至る途中の曲りくねった細い道や車の輻輳する交叉点を何らの事故もなく正常に運転してきていることおよび事故直後に作成された鑑識カードには歩行正常、直立正常、頭部普通、態度普通と記載され、すべての面で同被告が正常であったことからも窺われ、酒を飲んだことで本件の事故が誘発されたとは考えられない。

(二)  被告安孫子は時速約三〇粁で本件事故現場にさしかかった際約一五メートル前方に道路を左から右へと横断中の佐藤茂を発見し、同人が既にセンターライン寄りに進行しそのまま横断を続ける姿勢であったところから、同被告としてはその左側後方即ち道路の左端を通り抜けようとしたところ、次の瞬間予期に反して本件の事故が起ったもので、その原因としては茂が突然方向を転じて後戻りをしたこと以外に考えられず、そうだとすれば事故の原因は茂の側のみにあり、被告安孫子には何の過失もないことになる。

(三)  茂は極めて内向的な性格でノイローゼの傾向が著しく、昭和三八年九月二四日から同年一〇月三一日迄上村神経科医院に初期分裂病様反応で入院加療したことがあり、また昭和三九年一二月一七日小泉キイと婚姻したが性格不一致で昭和四一年一二月二日に協議離婚し、その間八回も転々と職を変え、友人との交際は殆んどなく孤独な生活に終始し、事故当日は同僚の制止を振切って勤務先の寮を突然抜け出し同僚が心配のあまり茂の跡をつけていったことがあり、本件事故はその直後に発生したのである。

(四)  そして本件事故は横断歩道でない所で起きており、然も原動機付自転車の爆音や前照灯は茂が注意をしていたらすぐにも気付くべきものであるから、仮に被告安孫子に過失があったとしても、茂の側にも過失があったのだから、損害額の算定について過失相殺がなされるべきである。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、本件事故と原告らの関係について

原告ら主張事実はすべて当事者間に争いがない。

二、被告らの責任について

被告安孫子が呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラムのアルコールを保有していたことは当事者間に争いがなく、これに≪証拠省略≫を綜合すれば、被告安孫子は当夜午後八時二〇分頃身体に〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有しながら時速約三〇粁で原動機付自転車を運転し、前方注視を怠った過失により、現場道路(有効幅員六・五メートル)の進行左側外側線附近において、歩行中の茂にその背後から激突し同人を一一メートル余りもはね飛して路上に頭部を強打させ頭蓋底骨折により約二五分後に死亡させたとの事実を認めることができる。

右認定について、被告らは被告安孫子の過失を争い事故の原因は茂にありと主張して答弁第四項(一)ないし(三)記載の諸点を挙げている。然し

(一)の点については、被告安孫子がいかに酒豪であるとしても前記のアルコールを身体に保有しながらその影響を受けずに正常な運転ができたとみるべき証拠はない。被告らは被告安孫子が落野目公民館から本件現場迄何らの事故を起さず運転してきたことをもって恰も同被告がアルコールの影響を受けなかったかの如く主張しているが、それはむしろ同被告がアルコールの影響により運転の緊張を最後迄持続できず次第に前方注視力が低下したため遂に本件現場で事故を起すに至ったとみるのが相当であり、また鑑識カードの記載については、前掲乙第二号証によれば、それは本件事故後約一時間四〇分を経過した午後一〇時三分に実検した結果を記載したものであるから、その時点において被告安孫子の歩行、直立が正常だったからといって同被告が本件現場にさしかかった際も正常であったということはできない。

(二)の点については、道路横断中の茂が中央附近から急に後戻りしたという被告らの主張にそう証拠としては、≪証拠省略≫があるけれども、右はいずれも≪証拠省略≫に明らかな本件事故現場の痕跡(これらの痕跡は≪証拠省略≫によって認められる茂の腰部真うしろの外傷とあわせ、被告安孫子が左外側線附近を進行し、同一方向に歩行していた茂にその真うしろから激突したことを推認させるものである)と≪証拠省略≫とに対比してにわかに措信しがたく、他に被告らの前記主張にそう証拠はない。

(三)については、被告らの主張する茂の入院、小泉キイとの結婚と離婚、八回にわたる転職の事実はいずれも当事者間に争いがない。然し≪証拠省略≫によれば、茂が上村神経科医院に入院したのは昭和三八年三月大学卒業の際銀行の入社試験に失敗し自信を喪失したことが原因となって心因性の憂うつ状態になったからのことで、同年一〇月に退院後短期間にしばしば転職したのはその職業内容がおよそ大学卒業者にふさわしいものではなく茂としては各職業を続けることに魅力も将来も見込みも持たなかったからのことであって、その間小泉キイとの結婚および離婚ということはあったが、阿部光男のはからいで第一製パンに入社してからの茂には昭和三八年当時の憂うつ状態は全くなかったばかりか、むしろ同社においては人柄および勤務成績とも良好と評価されていたことが認められるので、茂が内向的でノイローゼの傾向にあったという被告らの主張は理由がないし、また事故当夜の茂の行動に関する被告らの主張事実を認めるに足りる証拠はない。

なお(四)の過失相殺に関しては、先ず茂が被告ら主張のような現場道路を横断しようとしていたと認めるに足りる証拠はないし、また茂も原動機付自転車の前照灯や爆音に注意して避譲すべきであったとする点も前記のとおり茂は背後から激突されていること、および≪証拠省略≫によれば現場道路の歩道は当時工事中であったことからすると、茂について損害額の算定につき斟酌せねばならぬほどの過失があったとは認め難い。

以上のとおりで、本件事故は被告安孫子の過失によって生じたものであるから同被告は加害者として不法行為責任を、また同被告が被告会社の従業員で被告会社の業務執行中に本件事故を惹起したことは当事者間に争いがないから被告会社は使用者責任をそれぞれ負うべきである。

三、本件事故による損害

(一)  茂の喪失利益

茂が死亡時満二六才の男子で第一製パンに勤務していたことは当事者間に争いがなく、その月収が三五、七〇〇円であったことは≪証拠省略≫によってこれを認め得る。また茂の生活費についてはその数額がいくらであるかを積極的に認定するに足りる証拠はないので原告の自陳する月額一〇、四〇〇円をもって生活費とし前記月収より控除すると、茂は本件事故当時月額二五、三〇〇円の利益を得ていたことになる。

そした茂が特に健康であったとか或は病弱であったと認むべき証拠はないから、同人は普通の男子と同様その平均余命の範囲で少くとも満六〇才迄は稼働することができ、且つその間少くとも前記月額二五、三〇〇円の利益はあげ得たものと推認される。

従って茂が本件事故によって死亡し右利益を喪失した損害額をホフマン式計算によって法定利率による中間利息を控除し死亡時の一時払額に換算(その係数は二三八・〇六九五)すると六、〇四五、八七三円(銭以下切捨)となる。

そして原告らが茂の父母でその相続分が各二分の一であることは当事者間に争いがないから、原告らは茂の前記損害賠償請求権を各三、〇二三、四三六円宛相続したことになる。

(二)  葬儀費用

これに関する原告由太郎の主張事実は≪証拠省略≫によってすべてこれを認め得る。

ところで被害者の遺族が支出した葬儀費用および墓碑建立・仏壇購入費は社会通念上相当とされる範囲において加害者に賠償せしむべきものであるが、本件の場合において葬儀費に関する別表(3)、(7)ないし(10)、(12)ないし(14)、(19)、(20)、(21)(但し茂の死亡診断書、住民票、戸籍抄本に関する分を除く)についてはいずれもその支出された全額を葬儀費用として社会通念上被告らに賠償をさせるに相当な範囲のものとまで認めるに足りる証拠はないし、また墓碑・仏壇・仏具に関する別表(11)、(16)ないし(18)については佐藤家全員のためその利益が将来に残るものであるからその支出の全額を被告らに賠償させることはこれまた相当でない。

従って当裁判所としては諸般の事情を考慮の上、葬儀費用については内二〇万円を、墓碑建立・仏壇および仏具の購入費についてはその約二割にあたる五万円をもって被告らに賠償させるに相当な額と認めることにする。

(三)  慰藉料

原告らが茂の父母であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、茂は原告らの五人の子の長子であること、前記のとおり大学卒業後他に職を持ち一旦は結婚して原告らより独立したものであること、本件事故当時は第一製パンの酒田市の寮に居住していたものであることが認められ、右の事実に本件事故の態様その他諸般の事情を考慮し、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は原告ら各人につき各五〇万円、合計一〇〇万円をもって相当と認める。

(四)  弁護士費用

≪証拠省略≫によれば原告由太郎主張事実を認めることができる。そして右三〇万円の弁護士費用は本件事案の内容と前記(一)ないし(三)の認容額とに照して被告らの賠償すべき相当額の範囲にあるものと認める。

四、結び

以上のとおりで、被告ら各自に対し、原告由太郎は前項(一)ないし(四)の合計四、〇七三、四三六円、原告ヨセは前項(一)と(三)の合計三、五二三、四三六円の損害賠償請求権を有するところ、原告らが本件事故に関し自動車損害賠償責任保険より一、四七一、〇〇〇円を受領し各二分の一宛前記損害賠償金に充当した旨自陳しているのでこれを前記の額より控除すると、被告らが各自賠償すべき額は、原告由太郎について三、三三七、九三六円、原告ヨセについて二、七八七、九三六円およびこれらに対する損害発生後である昭和四三年六月二九日以降完済までの民法所定の遅延損害金となる。

よって原告らの請求は右の限度で理由があるから認容し、その余を失当として棄却することにし、訴訟費用については民訴法九二条、仮執行宣言については同法一九六条を、各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井野場秀臣)

<以下省略>

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